微笑みの中で

-----脳外科医の立場からスノーボードを考える-----
(出席者・発言順・敬称略）
●スノーボードの事故を防ぐ

奥寺	スノーボーダーをみていると、どうも海に遊びに行くような感覚の若者が多いような気がしますが。ウインタースポーツを知らないというか、夏の海へサーフィンをしにいくようで。スキーですと服装にしてもかなり厚手のものを着てますが、スノーボードは薄いようですね。厚手のものですと保温だけでなく衝突時のプロテクションにもなりますね。スノーボーダーの服装はかなりラフですよね。カラダを鍛えてからくるというより遊び気分できてますよね。
酒井	そうした気軽に遊べるところが、また人気の秘密なんでしょうね。
奥寺	それと、スキー場でスキーヤーとスノーボーダーが混在しているのはとても危険だと思います。私はスキーをしますが、何度も危険な目にあってます。スノーボードはターンする角度がちがうし、突然止まったりしますよね。それに、ゲレンデのなかで座って休んでいるでしょ。スキーで滑っていて見えないことがあるんです。
酒井	ええ、立って休めないですからね。
奥寺	安全対策のためにSAJや協会はどのようなことをしているんですかね。
藤巻	スノーボード振興会というところからメールがあって、私のホームページにリンクをはらせて欲しいといってきましたが。
鷲見	振興会とは私もすこし関係してますが、ボードの安全対策には積極的だと思います。
藤巻	リンクはまだしてませんが、振興会のホームページを見ましたら、注意事項などはきちっとかいてあって、これをちゃんと読んでくれていれば、だいぶ事故の予防になるんじゃないかと思いました。
鷲見	岐阜県ではスノーボーディングパス（有料）というものを出していて、これがないと入場できないスキー場があります。パスを発行するときに、スノーボーダーに注意を促しています。こうしたちょっとした注意で事故が減るともいえるでしょう。
奥寺	パスの発行に際して何か練習というか講習のようなものはあるんですか。
鷲見	それはないと思います。
奥寺	スキー場によってはライセンスを取らせるところがありますね。私の地元の八方尾根はライセンス制をとっています。これはスキースクールで検定を受ける。講習もあります。これがないとリフトにも乗れないようにしている。とにかく、ひとつのスポーツでこれだけ危険なものはないんじゃないでしょうかね。
鷲見	スキーの場合では初心者の重大事故は多くはないですね。
藤巻	危険度からいうと野球、柔道、ラグビーなど、あまり表にでないけれども重大な事故は起こっているそうです。決してスノーボードだけではない。硬膜下出血なども柔道でも起きている。
奥寺	スノーボードはファッションではなくスポーツなんだと考えて欲しいですね。
鷲見	スノーボードは街からきている。スキーは山からきているんですね。街からやってきて、自然の恐さをぜんぜん知らない。雪は軟らかいもんだと思っている。
藤巻	服装も原宿を歩いているようなスタイルで、ちょっと厚着したくらいですね。
奥寺	ヘルメットを被っているのかと思ったら、手ぬぐいを巻いている。スカーフなんてのもいる。おいおい大丈夫かなと心配してしまう。帽子や手袋にしても防寒だけではなく、安全性もあるのだからしっかりしたものをつけてもらいたい。ミトンの手袋にしても指がしっかり使えないので転んだときに骨折しやすいですね。そういった用具やウエアについてももう少し考えてほしいですね。
藤巻	ヘルメットやレガーズをして滑る人は少ないかもしれませんが、アメリカンフットボールのフェイスガードのように、逆にカッコイイというようにしちゃえばいいんですがね。
酒井	やはりファッション性は抜きに考えられないですね。
奥寺	自転車ではなく、オートバイに乗るくらいの気持ちが欲しいですね。それくらい危険だということ認識してほしいですね。本当の初心者はスキーの場合だとスキースクールにはいったもんですがね。我々の世代だと。
鷲見	スキーでも発生率は別にしてほぼ同じぐらいの死亡事故はあるんです。だけども、散歩をするような軽い気持ちでスキー場に来て、ボードを履いて、転んで、死んでしまったというのが問題なんです。危険性をちゃんと知っていてきて、死亡したということとは違うんですね。ご家族、ご遺族の気持ちとしても、耐えられないものがあるとおもいます。
酒井	平成八年度の全国調査でも、スノーボードをはじめたその日に死亡している例が十人中二人もいるんです。ジャンプをするとかですとある程度危険性は分かってやっているのですが、はじめたその日ではなにも分からない。
奥寺	私のところでもあります。まわりの人間も結構のんきで「あぁ転んだ」ぐらいにしか感じてない。そうして、かなり時間が経って病院にやってきて手遅れになってしまう。もう少し早くきていればというケースもある。
酒井	スノーボードの場合、転んでも外見上は大丈夫ということもあるんです。でも、時間がたって、気分が悪くなってあわてて病院に来ると言うことも多い。
藤巻	今シーズン、諏訪の患者にも、自分が転んだことが分からなくて、滑って降りてきて、しばらくレストハウスで休んでいてどうも転んだらしいとわかってきたら、そのまま意識がなくなってしまうという例がありました。すぐ手術をして三カ月ほどして意識がもどってはきましたが。
酒井	はじめた日に死亡につながるスポーツというのは、ほかにないですよね。