-----体験的スノーボード入門 安全で楽しいスノーボードのために----- | |||
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●スノーボードとケガ | |||
……スキーよりスノーボードのほうがケガをする確率が高いことが医学界で注目されて いるようですが。 | |||
相沢 |
そうですね。いまスノーボードの人口が急増していますよね。そこで感じるのは (私は心の底からスノーボードに興味を持って始めたのですけど)今のある部分 の人達は、周りがやっているから、自分もやらないと仲間外れにされる。そのよ うな考えでやっているようなところがある。ファッションやカタチから入るのは 悪いことではないけど、そんなにやりたくない、どうしてもやってみたいわけで はない、と考えるような人が想像以上に多かった。そういう人達だから知識もな いし、マテリアルに関しても、調整の方法も知らないでいる。 なおかつ、スノーボードの販売店にも問題があると思います。プロショップの ようにきちんとしたアドバイザーがいて、用具のセッティングとか、安全に関す ることも教えているところは安心なのですが、このブームにあやかって商売を始 めたようなところで無責任なお店もあるようです。知識のない店員が用具の調整 すらしていなかったり、売りっぱなしの状態。それでゲレンデにいきますよね。 ボクもスノーボードスクールをやっていますが、レッスンの時間が始まって、 さあやるぞと生徒にスノーボードを履かせると、バインディングのバックルがゆ るゆるだったり、ひどい人は流れ止めを付けていない場合もある。 レッスンを始めて、転び方、起きあがり方はまだいいんですが、問題は横滑り からです。スノーボードの場合は横滑りをするのに斜面に対してボードを角付け してボードを立てるのですけど、どれだけ立てるとボードが止まって、その立て ていたボードのエッジを緩めるとズズッと滑り出す、その感覚を覚えてもらうの ですが、もっとヒザを曲げて斜面に対してボードを立てろと指導しても、一生懸 命にやっているのはわかるけれどボードが起きない。おかしいと思って近寄って みると、バックルがゆるゆる。力がまったくボードに伝わっていない。ボードの エッジが立っていないのにヒザ・足首を戻そうとするので逆側のエッジが引っか かって転倒してしまう。後方に転倒してしまうと頭部を打ってしまう。これが逆 エッジの代表的なケースですね。 先日、インストラクターの学科試験があって講義をしたのですが、そのときも そういった事故がクローズアップされてきていると話しました。自分の考えとし ては、ひとつはマテリアルの調整の問題です。バインディングとブーツをしっか り締めて力をロスすることなくボードに伝えれば、事故を少しでも減らすことが できるということ。ふたつめは足の裏の感覚からどれくらいボードのエッジを立 てれば止まる、どれくらい緩めれば滑り出すということを覚えてもらわなければ いけないと思っています。それがスノーボードスクールなどでも教えることが少 なすぎる。スキーと違ってストックがない分、そこの部分を徹底して教えなけれ ばいけないのではないかということです。 もうひとつ、ボクは十五年のキャリアがあるのですけど、ものすごいスピード での転倒や逆エッジの転倒も数えきれないほど経験していますが、幸いカラダは 今もピンピンしています。では今の初心者が逆エッジで転んでケガをするのと自 分とでは何が違うのだろうかと考えました。我々の場合はどんなに不意に転びそ うになっても、一瞬のうちに、転ぶことに対して構える時間が、例えば〇・五秒 でも準備できる。でも初心者はいつ転ぶかまったくわからない状態ですね。本当 に一瞬のできごとなので同じ〇・五秒でも転ぶのかわからないうちに転んでいる。 転ぶ瞬間に構えられる人と構えられない人との違いが、ケガのあるなしのポ イントになってくると思います。 じゃあどうやったら転ぶことを予測できるかということを考えると、足もとの 感覚が大事になってくると思うんですよ。初心者は滑走中は足もとに意識がない んですよ。上級者になると目で雪面を見ているのですけど、足の裏にもいわゆる 目を持っているのです。足の各関節や足もとに、今どれくらい緊張感があるかと か、ボードがどんな状態になっているかということを感じながら滑っているんで すよね。それが初心者には無い。つまり、いつ転びそうになるのかまったく予測 がつかない状態。そのあたりがポイントじゃないかなと感じています。 | ||
……ケガをするのは上級者は少ない。病院に行くようなケガは初・中級者に多いよう ですね。 | |||
相沢 |
それにケガがあっても種類が違ってきます。私たちもアタマは打つけど、ちょっ と違うんですよ。滑っているスピードも違うのですが、逆にスピードがあるから 助かるようなこともある。緩斜面よりは急斜面のほうが転んだときの安全性はあ ります。これはスキーにも言えることだと思います。 | ||
……スノーボードの場合、一度の転倒でなくて、一日のうちに何回か重なってきて、 記憶がだんだん無くなってしまうケースもあるらしい。 | |||
相沢 |
そういう話は聞いたことがあります。ある人がクルマで仲間と滑りに行って、 滑っている内にアタマを打ってしまってから記憶がぼやけてしまって、一緒に 行った仲間のことを忘れてしまい、仲間をスキー場においたまま自分だけ自宅 へ帰ってしまったという話がありますよ。 私の妻も二、三年前にアタマを打って入院したんですよ。転ぶのはいつも同 じ方向なんですよね。昨日は右で、今日は左じゃないからいつも打つところが 一緒だったんですよ。でも初心者だったんでケガの怖さを知らなかった。転ん でも、なんで転んだのかわからない。で、何回か転んでるうちに気分が悪いと いうので、病院へ行って調べたらアタマに変な影があるので、スグに入院して くださいって言われたんですよ。まあ様子をしばらく見て、異常がなかったの で退院できたのですけど。そんな大ケガするような転び方じゃなかったし、逆 にあんな転び方でもこんな風になるんだと驚きました。病院に連れていったと きに、お医者さんはピリピリしてました。逆エッジで転倒して頭を打つことの 危険性がこれだけ取り上げられていなかったら、きっとそれほどお医者さんも 神経を使わないような気もする。その頃はケガの報告が増えてきていたので診 てもらったお医者さんもかなり神経質になって神妙な顔をしていたと思います。 テレビなどでも話題として取り上げられていますよね。医学的に分析してい て、円を描くように転ぶのが非常に危険だと。それは確かにそういう動きが危 ないのはわかるりますが、我々の立場から言わせてもらえば、さっき言ったよ うに、足に意識を持つというか、足裏の感覚に教わって滑るトレーニングが必 要ですね。ですから、そういった指導をしていく我々インストラクターの存在 というものが、重要になってくると思います。とくに初心者でも一年未満の人 のケガが多いように思います。 | ||
……他にもいろいろなことが重なってケガをすることもあると思います。例えば夜中に 家を出て、朝着いて、疲れているのに滑り出すとか。ケガをしやすい他の要素がい ろいろあると思う。用具を正しく手入れしてる人や、普段筋力トレーニングをして いる人はあまりいないような気がします。 | |||
相沢 |
まあ、ファッション感覚から入っていくのはしょうがないとは思いますけど。 初心者に対してスノーボードスクールに入校するようなアピールが必要だと思 います。 | ||
……スキー場によっては、必ず入校しなければいけないようなところもありますよね。 あとライセンス制度や誓約書など。それで、そういうのが面倒くさいので敬遠する 人もいるとは思いますけど。また初めての人に対して無料のワンポイントレッスン を行なっているところもある。基本的な知識をそこで学んでもらうというようなこ ともスキー場のひとつの在り方かなと思いますね。 | |||
相沢 |
でもライセンス制を採っているところでも、マナーを良くしたり、ケガやトラブ ルを少なくするためにライセンス制にしているというところは多くはない。 利益的なことを考えているところがある。 例えば中級クラスの人にすれば、一日券にお金を払い、さらに時間をとられて チェックされ、また、初心者のスキーヤーが滑っているところをスノーボーダー だというだけで滑ることができない。なぜだと文句はでてきますよね。ライセン ス制でレベルを分けられて、マナーが良くなったり、トラブルを防げているかと いったら疑問だと思いますね。それに、自分よりレベルの高い人と一緒に同じゲ レンデで滑れないということにもなる。 ですから、そういう規制をするよりも、マナーの指導を徹底することでスキー ヤーと共存していくのがよほどいいことだと思う。ライセンス制度には賛成でき ないですね。 | ||
……スノーボーダーのマナーが悪いと言っているのはスキーヤーのほうからですね。 | |||
相沢 |
初心者は一緒ですよね。どちらにしても迷惑をかけることが多いのだから、お互 い様なんですよ。ただスノーボードの場合、スタイルが目立つのでどうしても非 難されてしまうような気がする。 | ||
……スキー場や索道関係者にもスノーボードの知識が少ないように思えるんですけどね。 現在のリフト乗り場、降り場はスキーヤーが使いやすいようにできていると思うん ですが、この辺も改良すべきところがあると思いますが。ハード面でスキー場側が 用意すべきことがいくつもありますね。 | |||
相沢 |
そうですね、そういうところを意識しているスキー場もあります。例えばバイン ディングのネジが緩みやすいのでリフト脇に調整台を設置しているなど。 それと、滑り降りてきて疲れたから休もうと思ってもスキーみたいにストックで 休めない。そこで座りこんでしまう。これが問題になっているので、コース脇に 腰掛けられるような棒(丸太)を設置しているという話も聞いたことがあります。 リフトはスノーボード用に特に作りなおす必要はありません。今のままで十分。 後は慣れですよね。 最近、スキーの人気もひと頃の勢いがないですよね。スキー場としてもいかに スノーボードを積極的に受け入れるかが、スキーヤーの入場者減少を補うと考え ているようですね。積極的になってきてますよ。 | ||
……だからスキー場側がスノーボードに対する知識を持ってオープンするなら問題はな いけど、ちょっと前はスキーヤーが文句いっていたから開放するのをやめておこう、 そして今度は売り上げが落ちているのでオープンしちゃおうという単純な理由が目立 ちます。少なくともスクールは用意していなければいけないと思うんですよね。現在 のスキー場にあるスクールにはスキーの先生とスノーボードの先生を両方置いている ところもあるけれど、それは規則として決まっているわけではないんですよね。 | |||
相沢 |
スキー場にですか?それはないんじゃないですか。ただ言いたいのはスノーボー ドを受け入れているスキー場にスノーボードスクールがあるところとないところ ではスノーボーダーのマナーの面でも違いがあると思います。一般の人が滑りに きて滑りの見本、マナーの見本であるインストラクターが滑っていれば、インス トラクターは監視しているわけではないけど、お客さんも「へんなことは、でき ないな」と思ってくれるというところがあると思うんで、やっぱりスクールは必 要ですよ。 スノーボード協会の教育本部のなかには学校部会があって、そういう事故も含 めてスノーボードスクールの重要性などについては指導しています。それにとも なってインストラクターの研修では、一般のスノーボーダーに対して指導するた めの講習の機会を増やしています。今後も地道にそういった活動を続けていく予 定です。 |
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……危険防止のためにヘルメットなどの防具がありますがに、こうした防具の効果につ いてどう思いますか。 | |||
相沢 |
テレビでもそのことは取り上げられてましたけれど、要は転ぶときに円運動を描 くことが危険なのであって、雪が軟らかくてもヘルメットをかぶっていても結果 的には変わらないようですね。でも防具は使えば使っただけの効果があるとは思 います。例えば気持ちの面で引き締まるし、打撲くらいは防いでくれるんじゃな いですか。脳の中まではちょっとわからないですけど。 だけど、今の若い人がヘルメットをかぶって滑るのかどうか? 以前、スキー 場で机を出してそこにヘルメットを置いて、借りたい人はご自由にどうぞってや りましたが、誰も一個も使わなかった。 ケガのコワさを知らないんですよね。わかっているとしても…、自分の子供に かぶらせることはあっても、「いい大人」が、「女の子にモテたい」と思うよう な人がヘルメットかぶってスノーボードはしないぞ〜(笑)。レーサーを目指し ているなら別ですけどね。 まぁ、考えてみればスピードがあるのにヘルメットをかぶらないというのは、 ノーヘルでバイクを運転するようなもんですよね。 | ||
……用具もいろいろなタイプがでてきていますが、バインディングにはスキーと同じよう な安全機能はないようですが。 | |||
相沢 |
ステップインができるだけで、スキーみたいに余計な負荷がかかるとブーツを解 放するようなセイフティ機能にはなってませんね。便利にはなっていると思いま すけど、安全面では特に改良されているとは聞いてません。むしろ安全な用具よ りも、やっぱり大事なのは自分の使う用具を正しく選んで買って、セッティング をしっかりするということですね。ショップに全部責任があるとは言わないけど…。 | ||
……初心者だから安いモノでいい、安いところで買えばいいということではないですよね。 | |||
相沢 |
そうですね。ショップの店員もしっかりとした知識を持って、お客さんそれぞれ に的確なアドバイスをしてあげなくてはいけないと思います。 | ||
……道具を買うというのは、スノーボードを始める第一歩ですよね。 | |||
相沢 |
お客さんの立場を考えてアドバイスしてほしいですね。買うほうも信頼のおける ショップを選んで買うべきだと思う。でもどこが信頼がおけるのか初心者にはわ かりにくいんですよね(笑)。雑誌で取り上げられた記事だけで買っちゃう人も いるんだろうし、それから口のうまい店員もいるんだよな〜(笑)。ショップで の的確なアドバイスとスクールでの実地練習をしっかりやれば決して危険なスポ ーツではないと思います。 |