-----序にかえて----- | ||
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思い出の振り袖につつまれ 長い睫毛をふせ 微笑みながら やすらかに眠る「真理」
『白鳥』の空に舞うのか・・・・・・ | ||
平成八年二月四日、夕刻のことだった。 真理がスノーボードを楽しんでいる白鳥から、声を詰らせ涙声でかけてきた 娘の友人の電話で、時間が凍りついた。 真理が転倒して意識不明とのこと、病院は白鳥町の鷲見病院。 詳しいことは解らない。 雪のちらつく東海北陸自動車道を通り、病院に向かった。頭部の手術をする という。移動電話で判ったが、日頃近しくしていただいている富田医師が偶然にも、 その病院のご親戚とのこと、「立派な先生で腕も確か、最善の治療をお願いした」と 心強い電話。きっと私達が着いた時にはニコッと笑い、『ごめんねー!』と元気な 声に違いない。そんな真理の姿を信じ、祈り、スキー客の行き帰りで混み合う道を、 必死な思いでアクセル踏む。 玄関に飛び込んだ! 友人の五人とその家族の方も心配して来て下さっていた。 手術中とのこと、状態掴めず。 二時間ほどだろうか、担架がエレベーターから出てくる。頭部に白い包帯。 堀真理の名を見つけ、「真理、まりーっ」と呼びかける。剃髪された青々した 頭が覗くが答えは無い。 呼吸の管、点滴の管が何本も通され、鷲見先生が透視 写真を指しながら説明される。 「奇跡を待ちましょう。若いお譲さんなので親御さんの承諾なしで兎に角出 来るだけのことを施しました。先週NHKで緩斜面でのスノーボード転倒の際、 急性硬膜下血腫での死亡事故を検証する番組が放映されていましたが、真理さ んの状態がまさに典型的な症状です。 危ない状態です、覚悟はしておいて下さい」 たのむ助かってくれ。神様助けて下さい。 鼻から痰を吸排するチューブを差し込んでも反応が無い・・・・・・ 時間が止まった中で心拍の機械は波形を描く。 東の空がほの明かるくなってきた頃か、様態が変わった。 その心拍波形が水平状に ――――――――。 「まりちゃん、まりちゃん!」ベッド脇から五人が互いに呼びかける。 慌ただしく看護婦さんが動く。 先生から死亡が告げられる。呼吸器が外される。 五日、午前七時。 信じたくない! 信じられない! まりちゃん、お願いだ。息吹き返してくれよ! 窓の外は白一色、朝日が山々をキラキラと輝かせる。 目の中で白鳥連山が滲みゆがむ。 真理よ、 大きな赤ちゃんでこの世に生まれ、私にとって誇りの子だった。 病気ひとつせず、のんびり、でも、いつも笑顔を見せてくれた。 食品の栄養士課程を学んでくれたりもした。嬉しかった。 卒業後、西濃運輸グループのセ イノー情報サービスに入れていただき、 一段といきいきしてきた。一緒になって喜んだ。 西濃運輸の都市対抗応援団でもチヤガールを買って出て元気そのもの。 友達も多いようだ。 会社仲間のコンパの世話係りを買って出て企画者と自慢してた。 アクアラングでグァムやプーケットに遠征と洒落込んだり、 去年の冬からはスノーボードに挑戦。 今冬はバッチリと、友との年賀状がテーブルの上に溢れてたよね。 でも父さんは子ども達に折りにふれ、言ったはずだ。 社会に役立つ人間になろうと。 真理は、今まさに青春真っ盛り、楽しい嬉しい日々を持ってたよね。 でも、これから、これからなんだよ。 そう、君が楽しんだだけ。 そんな事じゃ駄目だよ。今、死んじゃ、駄目だよ。 何もしないでいなくなるなんて一番駄目なことなんだよ。 車の助手席に真理を寝かせ、帰路のハンドルを握った。 涙を流し、瞬間の出来事に怒りを投げかけた。 ―――――――――。 六日、雪降る凍えそうに寒い中、振り袖姿で眠る真理との別れに、職場の 方々、友人はじめ二千人もの心をいただいた。 御仏に抱かれて逝きし愛でし子にやさしくそそぐ綿帽子かな 私の友、宅間正恭氏より捧げられた弔歌を詠む声も途切れる。 直後より新聞の特集記事やテレビの特番などでスノーボードの危険性が 真理に関連づけて、ずいぶん取り上げられ始めた。専門家意見として鷲見 先生やスポーツ医学界、あるいはボード関係者が、脳内のメカニズムや事 故予防等についての貴重なご意見を述べておられた。 真理も事前にこんな知識を持っておれば・・・・・・ だがそれ以上に、今回の真理事件が、スノーボードに潜む危険性の落とし穴を 気付かせ、真理がその警鐘役を果たしたのだ。そんな思いが悲しさを少し癒して くれた。 年の暮れ、こんな礼状を皆様にお送りした。
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多くの方から感極まるお便りを頂戴した。 (株)セイノー情報サービスの社長鈴木秀郎様からは、いつか『真理さんの 思い出集』を出しましょうとお手紙をいただいた。
真理の天からの思いを広げよう。
ありがとうございます。思いが動きを始めました。お二人のお力で。
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